2018.01.10
94歳のピアニストの言葉
こんにちは。
1月7日のクラシック音楽館の後半で、94歳のピアニスト、メナヘム・プレスラーのマスタークラスとインタビューが放送されました。
自宅にはテレビはないのですが、録画したものを見せてもらうことができ、その音楽に対する姿勢に感銘を受けました。
まず、ドビュッシーの「月の光」の演奏が紹介されていたのですが、弱音の中にある表現の繊細さ。1音1音に対して「こういう音を出したい、こういう音楽を伝えたい」と思いを込めて演奏している様子が伝わってきました。
番組全体から学ぶべきことがあまりにも多かったので、いくつかに絞ってご紹介します。
シューベルトのピアノ三重奏第1番をレッスンしている様子があったのですが、ある部分で、プレスラー氏はピアニストに対して、そこについている強弱記号を質問し、「ピアニッシモです」との答えの後、もう一度弾くように言いました。ピアニストは細心の注意を払ってピアニッシモを弾いたと思います。
それに対して「その音はピアニッシモじゃない。アタック音が入っている」との指摘。続けて「ピアノをなでるように。」と手の使い方を示していました。プレスラー氏の手は、手の内側の筋肉を使ってピアノの鍵盤をなでるように動いていました。
ただ、その動かし方は日常的にそこを使う習慣があって、筋力がないと難しい。やはりその後も、頑張っているのだと思いますが、ピアノからはコツンという固い音が聞こえてきてしまいます。「ピアノをたたかないで。なでるように。」と重ねて言っているプレスラー氏。
ピアニッシモは強弱を示すだけではなく、さらにその中の音色のイメージを伴うもの。そこの弾き分けはやはり難しい。でも、だからこそ、ピアニッシモに限りませんが、1音1音の質を意識していくことの重要性を改めて思いました。
インタビューからも彼の音楽に対する姿勢が伝わってきました。
「音楽が語らなければならない。演奏者は音楽の言葉を聞かなければならない。音楽で語ってほしいのです。細心の注意を払って。」
「ただ音符を弾くだけでは意味がありません。座って音を弾くだけなら誰でもできる。」
「指で語る、それでこそ意味のある演奏なのです。」
ご自身が自分に対する一番厳しい批評家だと言っていたプレスラー氏。5歳でピアノを始め、94歳まで厳しい姿勢でピアノに向き合い続けている生き方。ただただ「すごい!」としか言いようがありませんでした。
同時に、私自身も音楽に関わる以上は、私なりの「指で語る」を目指していこう、という勇気も持てた番組でした。